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6月, 2021の投稿を表示しています

聞け!血涙の願い 戦後補償問題に生涯を捧げた遺族最後の訴え——林阿貞さん(1928年生まれ)

「あなたには悪いけど、日本政府は野蛮だっ!」。目を潤ませながら強い語気でこう言い放ったのは、40年以上、台湾出身日本兵とその遺族のために戦後補償問題に取り組み続けた林阿貞さんである。林さんの兄は先の大戦中の1944(昭和19)年、日本兵としてフィリピンに出征。1945(昭和20)年に山奥に撤退する際にそこで戦病死した。  林さんの兄ら台湾出身日本兵は、戦時中、同じ「日本人」として国に殉じた。その数は20余万、うち3万人以上が戦没した。  しかし戦後、日本は台湾を放棄し、台湾出身日本兵らは本人の意思に関わらず日本国籍が剥奪された。そして、日本政府からは「外国人」と見なされ、日本人としての補償は今日に至るまで受けられていない。加えて、戦後の台湾を占領したのは、台湾出身日本兵が「敵」として戦った中華民国・国民党政権。台湾人は命をかけて守ろうとした母国から見放され、かつての敵によって祖国を支配される「悲哀」の運命をたどることとなった。  林さんは遺族として、1970年代後半以来、民間の立場から台湾出身日本兵とその遺族に対する補償を求めて活動を始めた。  関係団体と協力して日本政府の総理府(現総務省)や厚生省(現厚生労働省)、衆参両議院議員への嘆願や陳情を繰り返した。日本に長期滞在すること計三年、往来も十数回に及んだ。しかし、そのほとんどがなしのつぶてだった。  というのも、日本政府は中華民国政府による認可のない団体は相手にせずという立場で林さんらの訴えに耳を傾けなかった。そこで、今度は中華民国政府に働きかけるも、この問題に無関心であり、団体の認可を得ることはできないままだった。「まるで日本政府と中華民国政府の間には密約があるよう」と、林さんは二つの政府への不信感をあらわにし、無視され、たらい回しされた当時を振り返る。  一方で、台湾出身日本兵らに一切の補償がない不条理に声を上げ、林さんらとともに立ち上がった日本人もたくさんおり、林さんは同志への恩義を今も忘れない。日本民主同志会の松本明重、極東国際軍事裁判で東条英機の弁護人を務めたことでも知られる元衆議院議長・清瀬一郎の子息である清瀬信次郎、弁護士の高木健一、また国会議員では板垣正、山中貞則、有馬元治、土井たか子など、林さんの名刺帳には当時、運動に寄り添ってくれた支援者の名前が並ぶ。  当事者や支援者らの長年の運動が実を結び

日本から台湾へAZワクチン124万回分を無償提供〜真似できない、見返りを求めず助け合う特別な関係

6月4日午後、成田国際空港発-桃園国際空港行きの日本航空JL809便が124万回分の英アストラゼネカ(AZ)製ワクチンを搭載して台湾に到着した。これは、5月以降、新型コロナウイルスの感染が拡大している台湾に対し、日本から無償提供されたものである。  台湾は今、国産ワクチンの開発を進める一方で、当面のワクチン不足に悩まされている。5月26日には年初に購入予定だった独ビオンテック社製のワクチンが中国の介入によって頓挫したことを蔡英文総統が明らかにしており、ワクチンの調達は難航している。そうした中で今回、日本が支援の手を差し伸べたことは大きなインパクトを伴って台湾で歓迎されている。  今回提供されたワクチンは、日本が国内供給用に調達したAZワクチンである。台湾の新聞「自由時報」は4日、このニュースを一面トップで報道している。消息筋によると124万回分のワクチンは目下、日本が保有するすべてのAZワクチンに該当するという。タイや韓国、インドでの感染拡大によってそれらの国におけるAZワクチンの生産量が減少する中で、日本が即時に、しかも保有するすべてを提供したことは「恵みの雨」として肯定的に報じている。  日本から台湾へのワクチン提供は5月28日に産経新聞が第一報を報じた。同紙によると、27日に日本政府及び自民党関係者が台湾に対して国内供給用に調達するAZワクチンの一部を提供する方向で検討していることを明らかにした。その後、実際に28日には茂木敏充外相が記者会見において、台湾へのワクチン提供について、東日本大震災における台湾による多大な支援に言及した上で「(ワクチン不足など)それぞれの地域における状況であったりとか、我が国との関係等々も考えながら、しっかり検討していきたいと思っています。」と発言し、前向きな姿勢を示した。  このことは台湾でも当初から強い期待を持って歓迎された。これは、26日に台湾のコロナ対策を統括する陳時中・中央流行疫情指揮中心指揮官が中国側からのワクチン提供の申し出に対し「彼ら(中国)が打っていないものには関心があるが、彼らが打っているものを打つ勇気はない」と冷たくあしらったものとは対照的であった。蔡英文総統も28日に自身のツイッターで「深い友情に、心から感謝」すると日本語でツイートし、日本からのワクチン提供に歓迎の意を示した。  そこからの動きは早かった。当

YouTubeメンバーシップ「台湾探究サポーター」のご案内/過去配信コラム一覧

皆様、こんにちは。 YouTube「 ゴンタケ台湾Channel 」運営者の権田猛資です。 2019年9月末に開設した当チャンネルでは、「台湾を学び、日本を知る」をコンセプトに掲げ、台湾の日本語世代の方へのインタビュー、日台交流秘話や最新の台湾情報を記録・発信しています。 おかげさまで、現在、1860人以上(2021年6月7日時点)の皆様にご登録いただきました。ご登録いただいている皆様、日頃よりご視聴いただいている皆様に改めて感謝申し上げます。 さて、当チャンネルでは2021年3月1日よりYouTubeメンバーシップ「台湾探究サポーター」を開始しました。こちらは月額490円の有料サービスです。 こちらを始めた理由は、当チャンネルの運営を持続可能なものとし、取材の幅を広げるためです。 いただいた収益はチャンネル運営費用(撮影機材や編集ソフト等)及び取材費、交通費として活用させていただきます。 メンバーシップにご登録いただいた際の特典として、毎週の「台湾探究コラム」の配信とメンバーシップ限定の動画配信を行なっております。 もしご興味を持っていただきましたらご登録いただければ幸いです。 ▶︎ご登録は こちら 以下は過去に配信したコラムのタイトルです。(一部記事は無料公開しています) 第1号  日台共通の「先輩」である日本語世代(2021年4月13日) 第2号  親日でも反日でもない「懐日」としての日本語世代に向き合う(2021年4月16日) 第3号  台湾有事は日本有事〜求められる日本人の覚悟(2021年4月17日) 第4号  日本は「台湾は中国領土の一部」と認めているか?〜 台湾独立運動巨匠からの回答(2021年4月23日) 第5号  脱却できるか!?日本と台湾が背負ったそれぞれの戦後レジーム(2021年4月28日) 第6号  「差別はなかった」日本統治時代の教育——陳淑英さん(1929年生まれ)(2021年5月7日) 第7号  聞け!血涙の願い 戦後補償問題に生涯を捧げた遺族最後の訴え——林阿貞さん(1928年生まれ)(2021年5月14日) 第8号  蔡英文総統再選就任から一年〜「有事」認識を共有する国民と政権の団結(2021年5月21日) 第9号  緊急レポート コロナ禍の台湾の今〜垣間見た台湾人の一体感、生き抜く力、誰も排除しない温かさ(2021年5月27日

脱却できるか!?日本と台湾が背負ったそれぞれの戦後レジーム

69年前の1952年4月28日、日本はサンフランシスコ平和条約が発効したことにより主権を回復した。しかし、戦後75年以上の月日が経った今も、日本は敗戦国としての宿命を背負い続け、「押し付け」憲法の下で「普通の国」にはなり切れていない。  日本はサンフランシスコ平和条約に基づいて、半世紀にわたり統治した台湾を放棄し、その帰属先を決める権限も喪失した。そして、台湾は仮初めの「戦勝国」としての中華民国によって支配されることとなった。  本来なら日本による統治が終了したことで、主権は台湾の土地に生きる住民に返還されるべきであっただろう。しかし、結局は国際条約としての有効性に疑いのあるカイロ「宣言」を根拠に、中華民国に返還されたことになっている。  台湾の地位をめぐる解釈や学説、政治的主張は様々だが、いずれにせよ、台湾人が戦後の中華民国体制下で辛酸を嘗めてきた歴史は疑いない事実である。ある日本語世代は「戦後の台湾を生き抜いた台湾人は二つに分類できる。一方は裏切り者。一方は臆病者。正義感のある日本時代のエリートは皆、殺された」と皮肉と悔しさを滲ませて表現する。  台湾では1949年から1987年まで38年にわたって戒厳令が敷かれた。それが解除されると、1992年に台湾出身者初の李登輝が総統に就任。1996年には初の直接総統選挙が行われた。さらに2000年には野党の民進党総統候補であった陳水扁が当選を果たして政権交代が実現し、国民党一党独裁時代が終焉した。その後、2008年に国民党の馬英九が、2016年に民進党の蔡英文がそれぞれ総統に就任し、8年毎に政権交代を繰り返している。  血を流して自由と民主を勝ち取り、自由民主主義国家として中華民国・国民党一党独裁体制という戦後レジームからの脱却に向けて漸進する台湾だが、真に戦後レジームから脱却するには、日本同様、憲法問題は避けて通れない。台湾の憲法は依然として「中華民国憲法」であり、条文の主語は言わずもがな「中華民国」である。  無論、台湾が憲法問題に着手することは「現状変更」を意味し、台湾を「核心的利益」「不可分の領土の一部」と主張する中国を刺激し、平和と安定が脅かされるという脅威認識が台湾人にはあるだろう。故に台湾人の多くは「現状維持」を志向し、憲法問題はハードルが高い。  一方で「脱蒋介石化(去蔣化)」という、戦後レジーム下の負の